サイゼリヤのメニューの記録を淡々と紹介していくサイト

サイゼリヤの名前の意味や由来は「くちなしの花」ではなくギリシャ神話の女神アフロディーテではないか

かつて、「サイゼリヤ」の名前はイタリア語の古語で(もしくはラテン語で)「くちなしの花」を意味する、という説があった。

昔のサイゼリヤのWebサイトでは、「クイズで知るサイゼリヤ」のページにて「イタリア語(古語)の白い花の名前に由来」「白い花はくちなしの花」と掲載されていた。少なくとも2011年頃までは掲載されていたようだけれど、いつのまにかその記述はなくなってしまった。

私が1990年代後半にサイゼリヤで働いていた当時も、店長から「サイゼリヤの意味は『くちなしの花』」と聞いていた。なので「サイゼリヤの意味は『くちなしの花』である」という話は少なくともある時期まで社内の公式な見解だったことがうかがえる。

しかし、いまサイゼリヤは公式にその名前の由来を明記していない。はたしてその名前の由来は結局何なのか、整理してみた。

目次

「クチナシ」はイタリア語でもラテン語でも「gardenia」

まず、当初サイゼリヤが名前の由来として挙げていた「くちなしの花」について。

「クチナシ」はイタリア語で「gardenia」だそうだ。英語でも「gardenia」、フランス語で「gardénia」、ドイツ語で「gardenie」、そしてラテン語でも「gardenia」だ。18世紀のスコットランド出身のアメリカ人植物学者アレキサンダー・ガーデン(Alexander Garden)に由来し、ガーデン氏の姓をもらってラテン風に「gardenia」と呼んだとのこと。名付けられたのも18世紀。

クチナシは東南アジア原生の植物で、もしかしたら違う呼び名もあるかもと少し調べたけれど、「Cape Jasmine」という別名があるくらいで、「サイゼリヤ」に似た発音の名前にはたどり着かなかった。

インターネット上の噂には「創業日の7月7日の誕生花がクチナシ」という説もある。サイゼリヤの創業は1967年7月で、確かに7月7日の誕生花の一つは「クチナシ」だ。創業日が7月7日というのを公式に確認できないけれども、どうも創業日はその日のようなので(従業員勢に確認)、誕生花は合っている。

でも、名前の由来としてはあやしい。

ギリシャ神話の女神アフロディーテの別名「Cytherea(サイセリア)」に由来するのでは説

個人的にもこの「サイゼリヤの名前の由来問題」は過去に何度か調べていて、10年ぐらい前に改めて調べていたときに出くわしたのが以下のブログ記事の説。

  • ギリシャ神話の女神アフロディーテの別名「Cytherea」に由来するのでは。読みは「サイセリア」
  • あるいは、蘭の一種カリプソ(Calypso)の別名も「Cytherea」で、蘭とクチナシを混同したのでは

なかなか良い説だと思う。私もこの説を推したい。

まず、ギリシャ神話の女神アフロディーテの別名「Cytherea(サイセリア)」の件(「シセリア」とも読む)。女性の一般的な名前として使われる「Cyceria(サイセリア)」「Cecilia(セシリア)」も、このアフロディーテの別名「Cytherea」に由来している。どこかで見かけてもおかしくない単語だ。

北海道札幌市には「コーヒー・サロン サイセリア」という喫茶店があるらしい。外観写真のロゴはカタカナしかないようだけど、入居している札幌アピアJRタワーのWebサイトの店舗紹介では「Saiseria」とある。綴りは違うけれども、この喫茶店もアフロディーテの別名「Cytherea」に由来するのかもしれない。

アピアJRタワーのWebサイトより
アピアJRタワーのWebサイトより(閉店によりページ存在せず)

アピアJRタワーの「コーヒー・サロン サイセリア」は2022年5月8日に閉店してしまったようだ

蘭の一種カリプソの別名は、調べてみると「Cytherea bulbosa」だった。

ちなみに「Cytherea」という名前の海外のポルノ女優がいるらしく、検索する際はご注意を。画像検索してはいけない(押すなよ、押すなよ)。

サイゼリヤのメニュー表紙

追記(2023年4月30日)。どこに追記しようかと悩んでここに追記。ウィキペディアの「正垣泰彦」さんのページに由来についての記述があった。

店名はそのまま使うことにしたのですが、どの国の言葉でもなかったのです。ギリシャ神話の女神アフロディテの俗称Cythereaをもじってつけたのではないかと思いますね。自分としては店名にはこだわってなかったが、女神(ビーナス)の意味に近いので気に入ったのです。

正垣泰彦 – Wikipedia

山本威一郎著の書籍『東京理科大学ユニーク人物列伝』7巻での記述だそう。さすがに購入していないのですが、これでほぼ確定という感じですかね。

追記終わり。

正垣会長は1967年に「サイゼリヤ」という名前の店を譲り受けて洋食店を始めている

サイゼリヤの創業は1967年7月。創業当時の様子はインタビューや書籍では少しずつ表現や内容が異なっているけれども、総合して整理すると概ね以下のような感じになる。

  • 大学生のときに飲食店でアルバイトをし、コックや従業員から高い評価を得ていた(新宿三越前にあった渋谷食堂)
  • 1967年の大学4年生(21歳)のとき、父親の知り合いが経営していた千葉県市川市の洋食屋「フルーツパーラー・サイゼリヤ」を譲り受けた。アルバイトをしていたお店のコックや従業員も移り、洋食屋として「サイゼリヤ」を始める
  • 店舗は火事で全焼、建物再建の後、1968年にイタリア料理店としてオープン

つまり「フルーツパーラー・サイゼリヤ」という名前の店舗を譲り受けているのだ。正垣会長自身が「サイゼリヤ」と最初に命名したわけではないことになる。

いくつかインタビュー記事や書籍を引用してみる。

さまざまなアルバイトをして忙しく、ろくに大学へ行かなかった3年生の春、当時、自宅のあった新宿に、1年中、アルバイト募集の貼り紙を出している食堂があった。気になって面接を受けてみると、仕事がきついので、みなすぐに辞めていってしまう、と店主は嘆く。納得して店をあとにするのではなく、「じゃあやってみるか」と常識とは反対の発想をするのが正垣泰彦という男なのである。「これが運のつきで、いまに至っちゃった」と笑いもせずに振り返る。

ビルの4階にある食堂で、みなが嫌がる皿洗いを率先して引き受け、閉店後には大きなバケツに5つほどにもなる生ごみを1人で1つずつ担いで1階まで階段を降りて運んだ。

大学にはろくに通っていなかったが、専攻する鉛の単結晶をテーマにした卒業論文は納得のいくものが書きたかった。4年生となり、店を辞めたいと申し出ると、コックや従業員から「どうか辞めないでくれ」と引きとめられる。働きぶりがそれほど認められていたのである。しかし、アルバイトをつづけながらでは、卒論を書くために必要な実験の時間をとることはできない。事情を明かすと、みながそろって、どこかで別の食堂を開いてくれたらそこへ移るから頼む、と頭を下げるのであった。

「それで、うちの親父に相談したら、知り合いがやってて潰れそうなどうしようもない店がある、というんで、じゃあやってみるか、と決まった」

その店こそ、千葉・市川にある、いまのJR本八幡駅に近い「フルーツパーラー・サイゼリヤ」という洋食店であった。商店街にあり、1階が八百屋で、狭くて急な階段を上らなければならない2階の店である。コックや従業員たちがそろってこの店へ移ってきた。1967(昭和42)年、正垣が店主として始めたこの店は今日のサイゼリヤの記念すべき第1号店である。

サイゼリヤ会長・正垣泰彦の「常識の反対をいく」レストラン経営|文藝春秋digital

学生時代、アルバイトばかりしていたが、最後にしたのが飲食店の皿洗い。そのときの仲間に「おまえと一緒に働きたいから、ぜひ店を開いてくれ」とおだてられて始めたのが、千葉で開店した「サイゼリヤ」だった。

書籍『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』正垣 泰彦 (著)

アルバイトは色々しましたが、大学在学中(4年)の1967年千葉県市川市の小さな洋食屋を譲りうけました。これがこれからの人生を決めることになるのですが、フルーツパーラーを洋食店に変えて名前を「サイゼリヤ」で始めました。最初はなかなかお客が来ませんでした。朝4時まで営業を行いその後仕込み、それから卒論の為に大学へと、掛け持ちで卒論を仕上げました。

外食産業と物理学 サイゼリヤ創業者 正垣泰彦氏に聞く | TUS Alumni News

1967年、大学在学中の21歳の時に千葉県市川市で洋食屋を始めたわけですけど、当初は食べ物屋なんてやりたいとも何とも思わなかった(笑)。たまたまアルバイトをしていた飲食店のコック長から、「おまえ、食べ物屋をやってみないか。向いてるぞ」と言われたのがきっかけです。サイゼリヤと共に生きてきた半世紀を振り返ると、これはエネルギーの仕業だなと思っています。

最悪の時こそ最高である——サイゼリヤ・正垣泰彦会長が語る「エネルギーの法則」|人間力・仕事力を高めるWEB chichi|致知出版社

大学に在学中の1967年、千葉・市川市の36席の小さな洋食屋を譲り受けた。初めは売り上げが伸びない。酔っ払った客同士の喧嘩で、ストーブが倒れて、店が全焼した。残ったのは借金だけ。死にそうな思いをしたものの、逃げなかった。
(中略)
帰国した68年、「サイゼリヤ」をイタリア料理レストランとして再オープンした。

安くておいしい料理は 体も頭も幸せにする サイゼリヤ 正垣泰彦・代表取締役会長 | WINE REPORT

学生時代、家の近所の洋食店が、一年中、従業員募集の張り紙を出していた。どんなものだろうと働いてみたところ、仲間に大変喜ばれてこちらが嬉しくなった。しばらく続けていたが、卒論を書くために辞めようと思い話したところ、他のコックや店員から「お前が辞めるなら、自分も辞める」と言われ、在学中に店を始めることとなった。
初めは全く売り上げがない。挙句にお客様同士の喧嘩から火事が起きた。「もう辞めよう」と思い、母に伝えたところ「貴方のために燃えたのだから辞めるな」と一言言われた。もう一度大家に頼んで借金をして始めた。でも、やっぱり儲からない。

株式会社サイゼリヤ 代表取締役会長 正垣 泰彦 様 | 東京大学

正垣会長自身が「サイゼリヤ」と最初に命名したわけではないので、サイゼリヤの名前の由来がブレるのも仕方がないかもしれない。店を譲り受けたときに伝え聞いた内容や、創業日の誕生花などが混じり合って、「サイゼリヤの名前の由来はくちなしの花」というストーリーが社内でできあがったのだろう。

ということで、サイゼリヤの名前の由来に正解はないかもしれない。「フルーツパーラー・サイゼリヤ」の命名者に聞く以外わからない。

いったん私も「ギリシャ神話の女神アフロディーテの別名Cytherea(サイセリア)に由来する」説を推しておく。

サイゼリヤのガラス窓

蛇足:女神ヴィーナス

最後。おもしろいのはサイゼリヤの店舗に掲げてある絵画の一つ「ヴィーナスの誕生」。

ローマ神話とギリシャ神話の違いはあるけれど、この女神ヴィーナスは、ギリシャ神話におけるアフロディーテ(サイセリア)に該当しますよね?(西洋史に詳しくないので合ってる? 詳しい人教えて)

この記事は、2022年2月12日に個人ブログ「sundaysoundtrack」に公開した記事を移転したものです。

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