窓を開ける

僕は窓を開ける。道路を車やバスが走る音が聞こえる。鳥の鳴き声がする。犬の鳴き声がする。窓を開けていればきっと何かいいことが起きそうで、僕は窓を開ける。

僕は窓を開ける。朝のわずかな時間だけ太陽の光が部屋に差し込む。もちろん雨の日は雨が吹き込んでくるから窓は閉めるし、曇りの日だってあるけれど、晴れた日には僕は窓を開け、わずかな太陽の光や匂いやエネルギーや雰囲気やその他いろんなものを、掻き集めるようにして部屋に入れる。僕にはそれがないとだんだん弱ってしまうような錯覚さえする。きっと呼吸だって苦しくなるに違いない。

僕は窓を開ける。窓枠の調子が悪いのか、年々開きにくくなっているような気もするけれど、そんなことお構いなしによいこらせと僕は窓を開ける。もちろん寒い日もあるし(僕が寒がりなのは知っているよね)、死にそうなくらい暑い日だってあるけれど、そういう日はじっと耐えて鼻歌が出そうなくらいの気温を待って窓を開ける。窓を開けて鼻歌がうっかり出そうになったらオッケーだ。

風の強い日は僕は窓を閉じる。風が強いと部屋の中が散らかってしまうし、思いもしないくだらないものだって部屋に飛び込んでくる。大切なものが僕の気がつかないうちにどこか飛んでいってしまうかもしれない。

夜になれば僕は窓を閉じる。僕が寝ている間に何かが入ってきたら困るからだ。それに、僕が寝ている間に大切なものが夜の闇の中に消えてしまってもとても困る。

心ここにあらずの時は僕は窓を閉じる。僕は僕の知らない間に僕を奪われたくない。

そして夜が明け、風が止み、外は鼻歌陽気で、僕の目の焦点が定まったとき、僕は再び窓を開ける。いろんなものが入ってきて、そして出て行く。カム・イン、カム・アウト。デイ・イン、デイ・アウト。

僕は窓を開ける。僕は、自分で窓が開けられなくなる日が来るまで窓を開ける。僕は、もう窓なんて開けなくてもいいという日が来るまで窓を開ける。僕は、窓が窓でなくなる日が来るまで窓を開ける。

窓を開けるわがままが許されている限り。

さあ、来い。さあ。

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