規格に足りない男の話2

いやあ、お客さん、いまシューズメーカーは男ものは25.5のサ​イズからしか作っていなくてですね、24.5とかないんですね。​なので、小さめの客さまにはこのような中敷きと一緒にご提案して​いるのですが、え? いや、このラコステだけじゃなくて、他のメ​ーカーも全部そうですね、はい。25.5からです。そうなんです​よお。女ものも足の形は少し違いますしね、ですのでこの中敷きと​かを敷いていただいて…、ええ。あ…、そうですか、はい、わかり​ました。はい、またよろしくお願いします。はい。

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僕はもう走ることができない

僕は走ることができない。
でもそれよりもっと速く歩くことができるんだ。
僕は走ることができない。
でもそれよりもっと速く歩くことができるんだよ。
僕はもう走ることができないんだけど。

Paul Simon “Can’t Run But” を勝手に意訳。

僕はもう走ることができない。残念ながらできないんだ。うん。別に悲しくはないんだけど、まあそういうこともあるよね、ぐらいに思っている。そう、僕はもう走ることができないんだ。

僕はもう走ることができない。飛び跳ねることもできない。たぶん激しい運動のほとんどもできないと思う。でもまあ、生きていればそういうこともあるよね。人生いろいろだからね。

僕はもう走ることができない。でも、普通に歩くことはできるよ。歩くのは好きだけど、むかし無茶して歩いて、足の筋が10本あるところ9本を損傷して、2~3か月足を引きずって歩いてたというバカなことをしてから、あんまり素っ頓狂なことをするのはやめにしたよ。歩くのは大好きなんだけどね。

僕はもう走ることができない。もう、走らなくてもいいと思うんだ。走らなくても、歩いていれば前に進むんよ、前に。止まってたら進まないけどね。走らなくても、歩いていればいいと思うよ。そんなにつらくないしね。

僕はもう走ることができない。走れる人は走ったらいいと思うよ。走ったら気持ちいいよね。風が気持ちいいよね。

僕はもう走ることができない。人生いろいろだからね。でも、そういうのもなかなか悪くないよ。歩いていても、風は気持ちいいしね。歩いていても、風を感じればいいからね。ほら、そういうのでいいだろ?

僕は鳥

僕は鳥。

羽を磨いて毛繕いして、尾っぽもちゃんと手入れして、いつでも素敵に飛べるように準備している。

くちばしだって磨いてる。

もちろん、新しい飛び方の勉強や練習も時間を見つけてはやってるし、いろんな国の風の流れや天候の情報チェックも怠らない。

巣のまわりは小綺麗に整えるようにしているし、花の種も植えて水もやっている。

仲間に出会ったら、何かしら、どうすればうまく飛べるのかだったり、どうすればうまく風に乗れたりするのかという話をしている。

笑顔の練習や背伸びの練習だってやってるんだぜ。はは、ちょっと馬鹿みたいだろ。

でもな、やっぱり一番大事だと思ってるのは、もっとうまく飛びたいと思っている鳥たちに出会って、一緒にうまく飛ぶこつを教えあったりすることかな。

おれももっとうまく飛びたいし、みんなももっとうまく飛べるはずだし、そうやってみんなうまく飛べるようになったら、世界って、もっと活気が出ると思わないかい。

まあ、今日はもう遅いから寝ようか。じゃあね。おやすみ。

大海原には潮があり
舟は漕がなくとも流れに乗ります

大きな舟は揺れも小さく
ゆったり進むことでしょう
皆が漕げばより速く
舵をとれば向きも定まります

小さな舟は揺れも大きく
ひっくり返るかもしれません
足を踏ん張り四方見て
皆必死に櫂を握るのです

海は広く舟はたゆたい
進むものが進むのです

窓を開ける

僕は窓を開ける。道路を車やバスが走る音が聞こえる。鳥の鳴き声がする。犬の鳴き声がする。窓を開けていればきっと何かいいことが起きそうで、僕は窓を開ける。

僕は窓を開ける。朝のわずかな時間だけ太陽の光が部屋に差し込む。もちろん雨の日は雨が吹き込んでくるから窓は閉めるし、曇りの日だってあるけれど、晴れた日には僕は窓を開け、わずかな太陽の光や匂いやエネルギーや雰囲気やその他いろんなものを、掻き集めるようにして部屋に入れる。僕にはそれがないとだんだん弱ってしまうような錯覚さえする。きっと呼吸だって苦しくなるに違いない。

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愛しのウクレレ

愛しのウクレレ。

君はソフトケースの中でじっと僕を待っている。

君はかまって欲しいから、決まってチューニングをはずして僕を待っている。

僕は「仕方がないなあ」とかなんとか言いながら君を抱きかかえ、

そしてポロンポロンと一弦ずつ音を合わせる。

君はとても嬉しそうだ。とても嬉しそうだ。

でも僕は君を扱うのがまだまだで、

結局最後には君も僕も不機嫌になってしまう。

それでも1ヶ月もすればお互いにまた会いたくなるのだ。

ああ、君といつまでも。

She’s Just My Little Girl

「記念写真とか、ハイ・チーズとか言って撮るような写真って、なんかイヤ」と彼女は言ったことがある。「なんか、写真がわざとらしいから。みんなどこかしら何か作ってるから」

「うん。」と僕はそのとき少し間をおいて答えた。「確かにそうかも知れない」

僕も少なからずそう思うことはある。記念写真で撮られた僕の写真にまともなものはほとんどない。妙にかしこまっていたり、或いは作り笑顔だったり。でも記念写真のすべてが悪いわけじゃない。時には記念写真だって必要なときがある。そのとき誰が何処で何をどうしたかについて、そのほんの一欠片を写真は教えてくれる。たとえそれがありふれた記念写真であっても。

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