2024年7月2日、Fairground Attractionのライブに行ってきた。35年ぶりの再結成、9月のニューアルバムの発表前に最初に日本でライブツアーというもの。彼らとゆかりのあるクラブクアトロが中心になって招聘したようだ。そのライブの個人的レポート。
彼らがまた集まって活動するとは思っていなかった
夢だ。むしろ夢とすら思っていなかった。彼らがまた集まって活動するとは思っていなかった。高校生のときにリアルタイムで彼らのファーストアルバムを初めて知り、気付いたときには解散してしまっていた。
それからずっとエディ・リーダーやマーク・ネヴィンのソロやその周辺を追いかけてきた。4人それぞれで互いに作品に参加することは何度もあったけれど、再結成するなんて不思議と思わなかった。なんでだろうね?
4人が再び集まっただけでなく、当時のライブをサポートしていたロジャー・ボジョレーとグラハム・ヘンダーソンも揃って6人のラインナップでツアーをスタートさせたというのもうれしかった。
会場は、有楽町のヒューリックホール東京。もともと映画館だったらしく(ライブ後に友だちから聞いた)、客席全体に傾斜がついていて後ろの座席でもステージは遮るものなく、とてもよく見えた。
客層の年齢は高め。仕方ないよ、あれから35年も経ったんだもの。
開演前に何名かの懐かしい友だちに会い、少しお話ししたり。
さて、ライブ。
ライブのセットリストの半分は昔と変わらぬバイブスの新曲
ライブのセットリストの半分は新曲だった。1988年に発表された曲と変わらぬバイブスの新曲たち。新曲と昔の曲の間にはなんの違和感もなく、私たちのノスタルジーを壊すこともない。かといって古くさいとか「わざとらしさ」も感じない。2024年モードでそのジャンルの音楽をプレイしている感じ。
バンドとして35年のブランクがあったことも忘れてしまうくらい、なんならバンドでずっと活動していたんじゃないかと思うくらいだった。
言いすぎかもしれない。わかっている。夢見心地だったのだ。たぶん観客みんなそうだ。
今回のツアーでは、どうも2024年9月発売のアルバム『Beautiful Happening』の全曲を披露していたようだ。僕の行った7月2日は1曲少なかったけれども、他の日程のセットリストを見る限りは新曲12曲を披露していて、それらは予定されているアルバム収録曲とほぼ一致している。
彼らにとっては再結成のツアーでもありつつ、ニューアルバムの披露でもあったわけで。
ただ日本でのライブのうち、この7月2日のステージだけレアなライブになった。
ドラムのロイが急遽欠席、この日はレアなライブに
開演直前、ステージにスマッシュの人が挨拶に出てきた。「なんだろう?」と思ったら、ドラムのロイ・ドッズが体調不良で急遽欠席、ドラムなしでライブをするという発表。
唐突に「心配」と「残念な気持ち」と「これから始まるワクワク」がごちゃ混ぜになったよくわからない感情でいっぱいになった。メンバーの年齢も年齢だし。
実は事前に、「どうもライブをレコーディングしているらしい」「映像も撮っているみたい」という情報も耳にしていた(真偽は知らない)。なのでほんの一瞬「客席の様子を映すかもしれませんとか、そういう公式なアナウンスかも」と思っただけに、軽くショックでもあった。
その「なんだかよくわからないぐちゃぐちゃの感情」のまま、メンバーがステージに登場して1曲目が始まる。
1曲目は新曲「A Hundred Years Of Heartache」。マーク・ネヴィンの2014年発表のソロ曲のリメイクだ(中盤で演奏した「Sing Anyway」も同様にマークのソロ曲のリメイクだ)。
ステージもオーディエンスもロイの不在を積極的にカバーしている感じだった。エディ・リーダーやロジャー・ボジョレーは積極的に手を叩き、指でスナップをし、曲によってはシェーカーを振っていた。私たちももちろん意識して手拍子でリズムを取った。その状況だけで胸が熱くなった。1曲目からそれを感じた。
間髪をいれず2曲目「A Smile In A Whisper」が始まり、もうだめだった。新曲でスタートして「わー!Fairground Attractionが演奏している!」という興奮から、「A Smile In A Whisper」で一瞬にしてノスタルジーがやってきた。涙がじわっとやってきた。
伝え聞くところでは、初日6月27日の渋谷クラブクアトロや2日目6月29日の名古屋クラブクアトロのライブは、とてもエモーショナルなものだったらしい。エディやマークはステージで感極まって涙し、観客も涙しつつシンガロングでそれを支えたり。
僕の見た4日目のステージはそのようなシチュエーションは少なかったけれど、それはたぶんロイの不在をどうカバーするかという緊張感があったからかもしれない。でもエディはずっとお茶目でおしゃべりだったし、ドラムが必要なシーンでは手でシンバルを鳴らしたり、「What’s Wrong With The World」でのマークのギターソロのところではドラムブラシを持って叩いてみたりと、ステージを楽しんでいた。馴染みの曲だろうが新曲だろうが観客にもどんどんシンガロングを求めた。「教えてあげるから」と言いながら。
ロイの不在は心配だし残念でもあったけれど、結果としてレアなステージを見られた。ロイは翌日のステージでは戻ってきたようでちょっと安心した。彼らが来日してから蒸し暑い日が続いたので、熱中症などになってしまったのかもしれない。
とにかくすてきなライブだった。もう見ることのできないバンドと思っていたけれど、彼らの再結成はすごく前向きなようだし、新曲をたくさん抱えてステージにやってきた。「今回限り」という雰囲気は全然なく、ごく自然なパーマネントな活動を期待できる感じだった。もうそうとしか思えない。
また会いたい。ロイのドラムで改めてきちんとライブを見たいし、「今回限りの奇跡の再結成ツアー」なんかじゃなく、活動を続けてほしい。
ライブの話に戻そう。
本編の終盤に演奏された「Perfect」は彼らの代表曲。エディのソロのライブでもよく演奏される。もちろんオーディエンスは大合唱し、「ステージとオーディエンスの一体感を確認する儀式としての曲」でもあり、お祭りのハイライトでもある。その演奏が終わって、エディがマークに少し抱きつきにいってもうなんだかこちらも胸がいっぱい。
その後に続いた新曲「Beautiful Happening」。
先にYouTubeで公開されたこの曲のミュージックビデオを見たとき、相当胸を打たれた。演奏の余白や余韻が聴く側の感情を揺さぶる曲。映像もノスタルジーを感じる内容で、「Perfect」のビデオのシーンをなぞるように同じ川で舟に乗って演奏し、過去の映像や「Allelujah」を連想させる凧のシーンが挿入されたり。
ステージでは「Perfect」が終わって観客が総立ちになり、拍手がやまない中で静かな「Beautiful Happening」のイントロのギターをマークが弾き始め、それでも拍手がやまず、マークがイントロをもう一度繰り返して弾いてエディの歌が始まるという感じだった。曲の構成から「きっと観客にシンガロングを促すんだろうなー」と思っていた箇所を予想どおり観客に歌わせ、なんなら「もっと大きく!」と歌わせ、心地よい余韻の中、本編は大団円を迎えた。
写真は本編最後のツアーメンバー全員の挨拶シーン。メンバー紹介でちゃんと「ドラムはロイ・ドッズ」とエディが紹介していた。
アンコール。「Allelujah」では泣いた。自分でもびっくりするぐらい涙が出て、ちょっと天井を眺めながら歌と演奏を聴いていた。
2度目のアンコール。エディがワンフレーズ「Comedy Waltz」を歌ってから、「Fear Is the Enemy of Love」。幻のセカンドアルバムに入るはずだった曲で、35年前のライブステージでも演奏されていた曲(その後マーク・ネヴィンとブライアン・ケネディがSweetmouth名義でその幻のセカンドアルバムのほとんどの曲をレコーディングして発表している)。アンコールの余興的な感じではあったけれど、35年前のライブ演奏とは異なりエディとマークがデュエットするスタイルで楽しそうだった。
2度目のアンコールが終わり、これまでの渋谷と名古屋と大阪のステージでは公演は終了だったものの、この日は拍手がやまなかった。客席にBGMがかかり客電も付き、帰りはじめた観客もいる中、やまない拍手が続いたおかげでエディがひとり登場。おかわりアンコール。
だって、Perfectの演奏後にEddiとMarkが抱き合ってその後にAllelujahって、そりゃ泣くよね?
— いちしま泰樹🥝株式会社真摯 ICHISHIMA Yasuki (@makitani) July 2, 2024
これはアンコール一旦終わって客席にBGMもかかってお客さんも帰り始めている中、拍手がやまずにEddiさん一人出てきたところ。ありがとーー#fairgroundattraction https://t.co/cVtFodTwb8 pic.twitter.com/wZNk6Q6RBe
エディがひとりでギターを弾きながら「Whispers」を演奏。短めのワンコーラスに加えてエディの大好きな童謡「うさぎ」をフィーチャーしつつ、伸びやかなあのファルセットもしっかり歌い上げて、こちらももう思い残すことはない感じ。
彼らがまた集まって演奏しようと思ってくれてうれしいし、僕も生きていて良かった。本当によかった。ロイの不在という要素はあったものの、でもとても幸せな時間だった。たぶん人生のハイライトの一つ。ありがとう、エディ、マーク、サイモン、ロイ。
去年12月の唐突な再結成&ライブツアーの発表、何が起きているのかよくわからなかった
振り返ること去年2023年の12月。唐突にFairground Attractionの再結成と日本のライブツアーの発表があり、正直なところ何が起きているのかよくわからなかった。日本独自の企画なのか、一時的な再結成なのか、何にもわからない。
とりあえずチケットを申し込み、うれしさやチケット抽選に当たるかどうかの不安やドキドキを抱える中、たたみかけるように投稿された公式Xからのポスト。そもそも公式のXのアカウントがあることにも驚くんですけど。
There is going to be a 'BEAUTIFUL HAPPENING' in JAPAN 2024 #fairgroundattraction pic.twitter.com/iYeJhWVxjQ
— FAIRGROUND ATTRACTION (@FairgroundA) December 19, 2023
There is going to be a 'BEAUTIFUL HAPPENING' in JAPAN 2024 #fairgroundattraction pic.twitter.com/iYeJhWVxjQ
— FAIRGROUND ATTRACTION (@FairgroundA) December 19, 2023
4人揃って演奏しているじゃないですか! もうリハをしているってこと?
この時点ではまだニューアルバムの話は聞いていなかったし、ツアータイトルが「Beautiful Happening」と知らされているだけだった。この動画でも「Beautiful Happening」と歌っているものの、ツアータイトルを適当なメロディーに乗せて歌っているのだと思っていた。
でもこれ、新曲「Beautiful Happening」だったんですよね。この時点でニューアルバムのレコーディングも進んでいたんだと思う。
これが去年の12月。ライブのある翌年6月7月はまだまだ先と思っていた。「半年後かー」と思っていた。
あっという間だった。でも幸せだ。いまもまだ幸せを味わっている。
ニューアルバムは9月に発表される。楽しみにしている。きっとすぐだ。生きよう。
ところで、彼らFairground Attractionの公式Xのプロフィールには、とてもシンプルな一文だけが書かれている。「Neo-Skiffle Legends.」。ネオ・スキッフル。最高だ。