「伝統的なカルボナーラ」とは結局なんなのか

カルボナーラの歴史は思ったよりも浅く、1950年代に登場して急速に人気を得た料理だったという話。

カルボナーラのタリアテッレ
いつぞやにいただいたカルボナーラのタリアテッレ。大変おいしかった記憶
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「パンチェッタの使用は偽物」イタリア農相が激怒したカルボナーラ論争

去年11月に「イタリアの農相が『偽カルボナーラのソース』に激怒」というニュースがありました。「パンチェッタを使用したカルボナーラなんぞ偽物である」と、欧州議会のスーパーに並んでいたカルボナーラソースを非難したというニュースです。1イタリアではカルボナーラはグアンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け)を使用するのが「正統」とされます(ちなみにパンチェッタは豚バラ肉の塩漬け)。

いまさらですが、とあるきっかけがあってカルボナーラについて調べてみました。すると、カルボナーラの歴史は意外に浅いことを知ります。史料ベースでは戦後の1950年以降になってレシピに登場し始めているようです。そこから急速に普及し人気を得た料理といえます。

EUには伝統的な食文化の保護と品質保証を目的とした「STG」と呼ばれる伝統的特産品保証の仕組みがあります(Specialità Tradizionale Garantita)。ナポリピッツァやアマトリチャーナなどはSTGの認定を受けてレシピとして定義されていますが、カルボナーラはその認定を受けていません。

先ほど紹介したニュースでは「パンチェッタを使ったカルボナーラはカルボナーラではない」という主張でしたが、文化慣習的な正統観でもって「伝統に反する」と抗議しているようにも見えます。別にそれは悪いことではありません。明文化されていない伝統はたくさんあり、慣習をもって伝統とするのも正しいはずです。

ちなみに、そのニュースで「偽物」とされたカルボナーラソースは、イタリア企業による製品でした。

一方で、例えばアマトリチャーナはSTGにて食材とレシピは定義されています。使用する食材はグアンチャーレ、トマト、ペコリーノロマーノ、唐辛子/胡椒と明文化されています。そのため、アマトリチャーナに関して「タマネギは邪道」という主張があったとき、それはある程度正当化されます。

カルボナーラは「何をもって伝統とするか」を示す必要があるかもしれません。

調べていると、そもそもSTGには申請のメリットが薄いという制度上の問題もあるようです。認定されてもEU各国のどこでも同じレシピで作ることができ、産地や生産者を守るDOPやIGPと比べて保護の実効性が低いためだそうです。

実はカルボナーラは戦後に登場。ローマの「古典パスタ文法」に組み込まれて「伝統」に?

カルボナーラの起源や由来には諸説あります。どれも確定的なものではないようですが、いずれも歴史は浅いようです。

その中に、1944年の戦後に連合軍(特にアメリカ兵)由来の食材や状況が強く関与したとする説があります。1944年のローマ解放後に連合軍の配給や物資が手に入るようになり、卵+豚肉の塩漬けという組み合わせが現実的になったというものです。

加えて、既にローマには「カチョエペペ」「グリーチャ」「アマトリチャーナ」という古典パスタ群がありました。この3つのパスタの歴史もこれはこれで大変おもしろいのですが、これらにはペコリーノロマーノ、ブラックペッパー、グアンチャーレが共通の食材として使用されます(カチョエペペはペコリーノとブラックペッパーのみ)。

この「ローマの文法」に卵を足す形で、カルボナーラを古典パスタ群に組み込みやすかったのだろうと思います。

結果として「ローマの古典パスタ文法」にカルボナーラは自然に組み込まれ、時間の経過とともに伝統という雰囲気をまとわせてレシピが正当化されていったのかもしれません。

もちろん、卵+チーズ+胡椒に豚の脂を足すというシンプルな構成は前例があり得そうです。起源や由来においても、どこそこ地方のなんとかと呼ばれたパスタにて食材とレシピに類似性がみられるというように、諸説の一角を形成しています。

「戦後に突然カルボナーラが発明された」というよりも、「戦後に複数系統のレシピと名称が束ねられて成立した」と考えるのがよさそうです。

「グアンチャーレのみ」「生クリームは邪道」はいつ決まったのか

カルボナーラがレシピに登場し始めるのは1950年代からです。

調べていると、かつては「タマネギやニンニクを使用したレシピもある」「必ずしもグアンチャーレは必須ではなくパンチェッタも代用されていた」「生クリームの使用も否定はされていなかった」という話にも出くわします。ローマの代表的な料理と扱われるようになったのは1990年代からという話もあります。

どうやら徐々に「カルボナーラはこうあるべし」と修正されていった様子です。歴史の変遷はとてもおもしろいです。

カルボナーラは比較的歴史の浅い料理ですが(古代ローマからの歴史を踏まえれば「浅い」という意味です)、イタリア料理には使用する食材が概ね決まっているものが多くあります。これは「古くから食材が厳密に定められていた」というよりも、「その当時に入手可能な食材が非常に限られた中で、貧困と闘いながら日常の食事として食べられていたものがいまの料理として残っているから」と考えるのが妥当です。

イタリア料理は「地方料理の集合体」とも呼ばれますが、それとも関連する話です。

名前の由来も「炭焼き職人」説など諸説あり

ちなみに「カルボナーラ (pasta alla carbonara)」という名前の由来も、料理の起源と同様に諸説あって確定していません。

最も広く知られているのは「炭焼き職人 (イタリア語でcarbonaro)」説で、アペニン山脈で木炭を作るために働いていた職人たちが仕事の合間に卵とチーズと豚の脂を和えた素朴なパスタを食べていた、というものです。イタリアの権威ある百科事典『トレッカーニ (Treccani)』でも「carbonaro」の項目にこの料理が記されており、語源としては有力そうです。

他にも「大量に使う黒胡椒が炭の粉に見えるから」という説や、「カルボネリア (Carboneria)」という名の秘密結社の集会を開いていた貴族の女性が料理をふるまったことが名の由来という説もあります。いずれも確証はなく、名前の由来もまた料理の歴史と同じように「諸説あり」のままです。

ということで、ここまでが「何をもってカルボナーラとするか」の話。

タマネギ入りアマトリチャーナがこの話のきっかけ

ではなぜカルボナーラについて調べていたかというと、先日ランチで食べたアマトリチャーナにこだわりのタマネギが入っていたのがきっかけです(とてもおいしかったです)。

アマトリチャーナ
いただいたアマトリチャーナ。パンチェッタと淡路タマネギのチリソース、24カ月熟成パルミジャーノレッジャーノがけ

アマトリチャーナにタマネギを使用するのは(少なくとも日本では)よく見かけます。しかし、イタリアでは「基本的にはタマネギを使用しない」ということになっています。

アマトリチャーナはカルボナーラよりも歴史のあるパスタです。先ほど紹介したEUのSTGでも認定されているのですが、「グアンチャーレ、トマト、ペコリーノロマーノ、+唐辛子/胡椒」と食材が定められています。「伝統的なアマトリチャーナとしてはニンニク、タマネギ、パンチェッタは用いない」とも書かれています。

ではなぜ日本ではタマネギを使用するのが一般的なんだろう?と調べ始めました。

おもしろいことにイタリアでも、少なくとも1960年代半ばまでのアマトリチャーナのレシピにはタマネギを使用したものが中心だったようなのです。一定の定着はあり、2000年代までタマネギ入りのレシピは相当一般的に残っていたとのこと。日本固有の風潮とかイタリア系アメリカ料理などでその流れが生まれたとかでもなさそうなのです。

その後イタリアで2010年代から「起源地の料理を守る」という文脈が広がり、「正統=タマネギなし」が権威側のメッセージとして強くなって、その結果タマネギやニンニクの不使用が明文化された、という着地になったようです。

そこから「じゃあカルボナーラはどうなんだろう?」と調べ始めて、今回の「伝統的なカルボナーラとは何か」の話になりました。

長くなりました。このお話はいったんここまで。

  1. 「偽カルボナーラ」にイタリア激怒、パンチェッタの使用は「犯罪」と非難 – CNN.co.jp ↩︎
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